人は木、町は森。― 子どもたちに伝える「みんな違っていい」ということ

江藤弥生ポスター制作

先日、小学生の夏休みのポスター制作の講師をしました。
今年で3回目で、アートで地元の子どもたちと接することができる貴重な時間です。

今回の夏休みのポスター制作でのテーマは下記のとおりでした。
・水源の森ポスター
・みどりの絵コンクール
・読書感想画
・人権週間に伴う作品
・苅田町社会福祉協議会設立50周年記念絵画コンクール
 「みらいの苅田町~50年後も、みんなが幸せに暮らす苅田町~」
 「みらいの福祉(しあわせ)のまち」

私は毎回、ポスターを描き始める前に、ポスター制作についてより
子どもたちに「絵を描くための思考」を促すためにお話をします。

私は木育講師なので、一番わかりにくいと思われる今住んでいる町の「水源の森」についてお話します。

みんなに、

「木を描いてみて」

と言ったら、どんな木を描くでしょう。

茶色い幹があって、その上に丸井葉っぱ、緑色の葉っぱがモコモコと茂っている。

そんな木を思い浮かべる人も多いかもしれません。

でも、本物の木をよく見てみると、全然違います。
葉っぱは緑や黄緑だけではありません。
紅葉の時期は黄色だったり、オレンジ色だったり、赤に染まります。
幹や枝の色も違います。
川にある岩も同じ色はありません。
空の色も晴れたとき雨のとき、夜でも違います。

そして、本物の葉っぱを用意します。
スギ、ヒノキ、クスノキ、イチョウ・・・
子どもたちの身近にある公園にはえている木なので
その木の全体の写真も一緒に見せます。

丸い葉っぱ。
細長い葉っぱ。
ギザギザした葉っぱ。
大きな葉っぱ、小さな葉っぱ。

幹の色も違えば、手触りも違います。
花を咲かせる木もあれば、実をつける木もあります。
香りのある木もあります。

同じ「木」と呼ばれているのに、
一つひとつ、こんなにも違う。

人も同じだと思うのです。

誰一人として、同じ人はいません。

得意なことも違う。
苦手なことも違う。
好きなものも違う。
考え方も違う。

元気いっぱいに枝を伸ばすような人もいれば、
静かに根を張っているような人もいる。

違うから、おもしろい。

そして、いろいろな木が一緒に生きているからこそ、森になります。

木材をつくるための人工林ではなく、
たくさんの種類の木がある天然林が強くてよい森になる。


私は子どもたちに、

「人を一本の木だとしたら、町は大きな森なのかもしれないね」

と話しました。

すると、もうひとつ気づくことがあります。

木は、木だけでは育ちません。

地面に根を張り、
土の中から水や栄養をもらいます。

太陽の光を浴び、
雨を受け、
周りの生きものとも関わりながら育っていきます。

人も同じではないでしょうか。

私たちは、その町にある自然や食べ物、文化、学校、地域の人たち、家族や友達など、たくさんのものから栄養をもらって育っています。

つまり、

地域が人を育てている。

そして、育った人はやがて枝を伸ばし、花を咲かせ、実をつけます。

その人が持っている知識や経験、技術、優しさを、今度は誰かに渡していく。

そう考えると、

人が地域を育てている

とも言えます。

地域が人を育て、人が地域を育てる。

森と同じように、そこには循環があります。

だから私は、「みんな同じでなくていい」と思っています。

桜に向かって、

「どうしてクスノキみたいになれないの?」

とは言いません。

クスノキに、

「どうして桜みたいな花を咲かせないの?」

とも言いません。

それぞれの木には、それぞれの育ち方があります。

人も同じです。

誰かと比べて、
同じ花を咲かせなくてもいい。

その人にしか咲かせられない花があるのだと思います。

そして、花を咲かせている時だけが大切なのでもありません。

今はまだ小さな芽かもしれない。

葉を落として、静かに過ごしている時かもしれない。

地上からは何も変わっていないように見えても、土の中で一生懸命、根を伸ばしている時かもしれません。

それも、その人の大切な時間です。

人権という言葉を聞くと、少し難しく感じるかもしれません。

けれど、

「あなたも大切。私も大切。」

まずは、そこからなのではないでしょうか。

違う木を、違うまま受け入れて大切にすること。

そして、それぞれが安心して根を張り、自分らしい枝を伸ばしていける場所をつくること。

そんな木が一本、また一本と増えていったら、

きっと町は、豊かな森になっていきます。

私は木育講座の最後に、子どもたちへよくこんなお話をします。

「今日、みんなの心に新しい木を一本植えました。

今日知ったこと、感じたこと、おもしろかったことを、ぜひ家族やお友達にも話してください。

そうすると、誰かの心にもまた、小さな木が生まれるかもしれません。

その木をみんなで育てて、大きな森をつくっていきましょう。」

最近になって、この言葉は木育だけの話ではなかったのだと気づきました。

人権も。
地域づくりも。
人に寄り添うことも。

若いころは名刺に「心に花を咲かせます」と書いていました。
その人に花咲かせることができたら、よしとしようと思っていました。

しかし、私がやってきたことは、もしかするとずっと、

人の心に木を植え、優しい「森」を育てること

グリーフケア活動の「花はすお話会」のやさしい地域づくりにつながると思えてきました。

人は木。

町は森。

では、あなたは、あなたが住んでいる森にとってどんな木でしょう。

そして、あなたが暮らしたい森は、どんな森でしょうか。

そして
本物の葉っぱの違いや、一本一本の木の違い、そして森の話をすると、
子どもたちの描く絵は少しずつ変わっていきます。

目線が変わるのです。

今まで何気なく見ていた木や葉っぱを、
「よく見てみよう」とするようになります。
きっと、写真で見せた木を公園に行ったときにみることでしょう。

私のポスター制作の授業は、
ただ「絵を描く技術」を教えるだけではありません。

これから向き合う真っ白な画用紙に、
さっきまでとは少し違う目線で、
自分が感じたこと、考えたことを描いてみる。

そんな心を育む時間でもあるのだと思っています。


本物を見て、その違いに気づく。
そこから何を感じ、何を描くのかは、その子次第です。

子どもたちの目線が変わり、
それが一枚の絵へと表れていく。

その変化を肌で感じられるこの時間が、
私はとても楽しいのです。

江藤弥生
はこぶね
「心と体と自然に向き合い、楽しく生きる」をテーマに活動しています。